安房直子記念〜ライラック通りの会

童話作家 安房直子さんの世界を語り継ぐ

童話作家 安房直子さんの世界は、時代を越えて多くの人の心によりそい続けてくれます。
その豊かさをまだ知らない子供たちや、若者、大人たちに、
安房直子さんの作品が広く読み継がれていってほしいと、私たちは願っています。
そのためのいろいろな活動をみなさんと一緒にやっていきたいと、この会を立ち上げました。


世話人 石川珠美 蓮見けい
スタッフ 永田陽二  イラスト 仁藤眞理子
  事務局 安房直子記念~ライラック通りの会 awanaoko.lilac@gmail.com

1月 ライラック文庫の会のご報告

1月23日に、「1月ライラック文庫の会」を開催いたしました。

コロナ禍を受けてZOOMによるオンラインの開催でしたが、9名の方にご参加いただき、安房作品について語り合うことができました。作品論の発表、単行本未収録作品の朗読、懇談と盛りだくさんでしたが、3時間があっという間のように感じました。皆さんの安房作品への想いが伝わる心温まる会となりましたこと、スタッフ一同感謝申し上げます。

 

目次

安房直子作品論発表 「盗る」ことと「約束を破る」こと(発表 石川珠美)

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安房さんとキリスト教との出会いは、高校時代にまで遡ります。わたしはキリスト者ではなく無宗教ですが、たまたまこのテーマに出会い、あまりスポットライトをあてられてこなかった安房作品のキリスト教からの影響という観点から読み直してみたいと思い、このテーマにのぞみました。
作品一覧を眺めていて気付いたことは、作品の登場人物がしばしばやむにやまれぬ衝動につき動かされて、ものを「盗る」ということ。そして、「約束を破る」ということ。しかし、そのような行為の報いとして、「罰」を受けることがない、という特徴があることに気づきました。繰り返し登場する「罪をおかしながら赦される主人公」というパターン。
「星のおはじき」「木の葉の魚」「ライラック通りのぼうし屋」「大きな朴の木」「とげ」を通して、安房作品におけるキリスト教からの影響と、安房作品の魅力の源泉を探りました。
ライラック通りのぼうし屋」における「羊」は、信仰を持つ者のメタファであったかもしれません。そしてそこから逃げた「羊」は安房さん自身であったかもしれません。安房さんの紡いだ数々の物語=トルコ帽は、ショーウィンドウに飾られ、読者は皆、「いなくなった羊の国」という、数々の「この世ならぬ異界」へと誘われるのです。

懇談では、光原さんから伺った「木の葉の魚」ラストページに味戸ケイコさんが描いた三匹の魚のエピソード、とても興味深く伺いました。

 

安房直子単行本未収録作品朗読「とげ」(朗読 榊原瑠衣)

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「とげ」は、安房作品には珍しいリアリズムの作品です。同人誌『海賊』4号に掲載されたこの作品は、海辺でひと夏を過ごす6歳の少女ひさえが海で遊ぶうち、友達の少年がおぼれて死んでしまうという悲しいお話です。罪悪感ややましさ、責任転嫁したいという複雑な思いを、ひさえは心に刺さった「とげ」として幼い心に自覚します。

リアリズムの手法で書かれてはいますが、『海賊』の「マスト」(編集後記)に書かれた安房さんの「どんな作品でも『詩』を失う事の無い様にと思っています。」という言葉通り、簡潔ながら美しい文章で、燃え上がるように赤いカンナの花や、夕暮れの浜辺でみつける少年の抜けた歯の描写などのイメージが鮮やかに描き出されています。

人前での朗読は初めての体験でとても緊張しましたが、かつて6歳だった自分と、いま母である自分の想いを込めて、精一杯読みました。

 

〇参加者の感想

初めての参加で、初対面の方ばかりの中で、最初緊張していたのですが、「安房直子さんの作品が好き」という同じ想いを持つ方々と集えると、こんなに居心地良く、また、次々と聴きたいこと、話したいことが溢れ出てくるのかと自分自身にも驚きました。初めて知る事実、初めて聴いたお話「とげ」などなど、情報盛りだくさんで有意義な会でした。
これまで好きだからという理由だけで、何となくしか読んでいなかった自分に気づき、石川さんや皆さんのように何か視点を決めて、安房作品を読んでみたいなとも思いました。本当に勉強になりました。次回も、とっても楽しみです。また、よろしくお願いします。(松多有子)

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 初めてzoomでの文庫の会に出席させていただきました。運営事務局のみなさまの、入念なご準備のほどが伺え、とても素晴らしい会でした。作品論の発表や未収録作品の朗読があったり、それについて皆で話し合ったり。心温まる、素敵な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。(小室朋子)

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zoomに慣れず緊張しましたが、おひとりおひとりのお話しに集中して聞く事ができて、深く楽しく、考えさせられる充実した会だったと思いました。一昨年購入した夢の果てを読み返しました。星のおはじき良いですね。
それからとげの朗読は、主人公の6歳の女の子が、お母さん、お母さんと呼ぶ声が耳に残りました。私の場合は、亡き母の持つ安心感への尊敬と感謝になり良かったです。(匿名希望)

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今回の「とげ」という作品は、今まで読んだ安房直子先生の作品の中で一番胸をうつ作品の為思わずこみあげてくるものがあり、聞いていて沢山泣いてしまいました。私だけ号泣しているのがとても目立ってしまい大変失礼致しました。さっきまで楽しく遊んでいたお友達がいきなり波にのまれて亡くなってしまうというとても涙をそそるお話で、主人公のひさえちゃんは、このできごとを一生忘れられないだろうなと思いました。

このお話は、とても涙をそそる作品ですが、その裏側には、人の命は、いつ終わりを迎えるかわからないからみんな1日1日を大切に感謝をして生きてねと、安房先生は訴えたいのかなと思いました。人の寿命は、生まれた時から決まっているという説もあるので、もしかしたらきょうちゃんは、命の大切さを自分に出会った人達に伝える使命をもって生まれてきたのかもしれないなと思いました。(河内美香)

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文庫の会に初めて参加できました。安房直子さんの作品をより深く知り、考えるきっかけをいただく時間になりますね。集まることが難しい中、オンライン開催してくださったことに感謝いたします。ありがとうございます。
石川さんの作品論に、興味深く聞き入りました。安房さんの童話の世界には、印象的なモチーフが存在し、何かを暗示するようにも感じられます。その中には、キリストの教えから、そのモチーフに繋がっている可能性があることは、新たな見方の一つとなりました。
そして、もう一つ、登場人物が行った「罪」について、罪の意識、罰の意識にまで追い詰めない、掘り下げないことも、安房さんが大切にしてきたかもしれないと、お話をお聴きして、何となくそうかなと思っていたことが、ようやく腑に落ちた感じがありました。同時にそれが実は、人の感情のリアルさをみせられていると、安房さんの作品の魅力であることも実感したのです。
未収録作品の一話「とげ」を榊原さんの朗読で聴かせていただきました。静かに作品の世界に引き込まれていきました。夏の海辺の風景と切ない思いがじーんと伝わってきて、感動しました。
集まれた皆さまと共有し、とてもいい時間をいただき、ありがとうございました。(野田香苗)

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興味深い作品論もありがとうございました。
安房さんの作品へのキリスト教の影響については、これまで意識したことがなかったのですが、指摘されてみれば、なるほど!という気持ちになりました。
今回は野田香苗さんとのご縁がつながったのも、思いがけなく嬉しいことでした。
以前、光原の作品を朗読で取り上げていただいたことがあり、そのときにメールでは
やり取りしていたのですが、面識はなかったので、今回お名前を見て驚き、同名の別人かと思ったらご本人で、本当に嬉しく思いました。(光原百合

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安房さんの作品との最初の出会いは、小学校の図書室で、タイトルやお名前を忘れてしまい、お話だけしか分からなくなっていて、再会したのはずいぶん大人になってからでした。『詩とメルヘン』が大好きでながめていたのは、お小遣いをためてたまに購入できた中学生や、高校生だったと思うのですが、よく考えたらそのころに、安房さんの作品とすれ違った記憶が・・・全くないことに、今気が付きました。(笑) 全く、なんというずぼらか、笑ってしまいます。出会いというのは、ほんのささやかな一瞬の偶然で、その中で安房さんの作品に巡り合えて、とても幸せに思います。

安房作品における「盗る」ことと「約束を破る」ことについて、驚きの連続で、新鮮にうかがっておりました。読む機会のなかったストーリーが沢山でしたし、再読もまた楽しみになりました。「木の葉の魚」のミステリーや、樹木の神秘的な登場を読み解き、刺激的でした。

それにしても、私は、たとえ禁忌といわれるものにふれてでも、極限に純粋な選択の中で、生き延びようとしたり、忘れてしまったりする人間らしい登場人物の振る舞いが
輝きと憧れに満ちていて、大好きなのだな、と思いました。悪いとされることすら、人のせいにしないで、ちゃあんと自分で選んで引き受けて、歩く姿に感動するのです。罪を被りつつ成長する物語の主人公に、あがなわれているのは、読者の自分なのかもしれないです。読後は、遊園地の乗り物が、終点について呆然としている子供のようになります。チケットを握りしめて、また並ぶのです。

「とげ」は朗読をありがとうございます。白いたてがみのシーンが深く印象に残りました。6歳で重たいものを背負ってしまったけど、夢の中の白い歯は、目の前からは確かに消えてしまったけどいつまでも一緒にいてくれる存在として主人公を見守ってくれるよというサインであったらいいなと思いました。(やしまかずこ)

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「盗る」ことと「約束を破る」ことについて、安房さんの作品を「キリスト教からの影響」から読んだことがなかったのですが、なるほど「許すこと」が多く描かれていると気づきました。もしかしたら、それはご自身の中で、どうしても許せない感情が心の底に沈んでいたからではないでしょうか?そんな心を抱えた自分でも神の許しを得たいと渇望していた様に思います。また、「ライラック通りのぼうし屋」で仲間のヒツジを消去しているのは、厳しい信仰の世界から自由なユートピアの世界へ行くには、「ひとりで行くこと」だと感じていたからではないでしょうか?

「とげ」について、日常世界の中で、「私じゃなくて良かった」と思うことは、ほぼ毎日あります。もはや、そんなあたり前のような感情が、どんな罪なことなのかは、なかなか気づかないことです。それを、ひさえの見た夢を通して、幼い子供にもわかりやすく描いたことが、すばらしい作品だと思います。全くみんな死にたえて、だれもいない世界に「生きているのは私だけ」という恐ろしさ・・・人の死を悼むことは、そんな世界にならないでほしいという望みです。(仁藤眞理子)

 

〇次回のライラック文庫の会の予定

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日程は未定ですが、5~6月ごろにライラック文庫の会を鋭意企画中です。詳しいことが決まりましたらお知らせいたします。