安房直子記念〜ライラック通りの会

童話作家 安房直子さんの世界を語り継ぐ

安房直子さんの作品世界は、時代を越えて多くの人の心によりそい続けてくれます。
その豊かさをまだ知らない子供たちや、若者、大人たちに、
安房直子さんの作品が広く読み継がれていってほしいと、私たちは願っています。
そのためのいろいろな活動をみなさんと一緒にやっていきたいと、この会を立ち上げました。


世話人 石川珠美 松多有子
スタッフ 永田陽二 野田香苗  イラスト 仁藤眞理子
  事務局 安房直子記念~ライラック通りの会 awanaoko.lilac@gmail.com

秋の会 「“海”が舞台の安房直子作品の読書会」のご報告

 

2019年10月20日(日)午後2時から保谷駅前公民館において、ライラック通りの会・秋の会を開催しました。参加者は18名(内スタッフ5名)、遠方からの方、親子二代でファンという方もいらっしゃいました。半数の方は初参加でファンの広がりを感じました。

会場には安房直子さんの直筆原稿、はがき、作品発表の場となった同人雑誌「海賊」等を展示しました。作品発表当時、昭和40年代の雰囲気を感じることもできました。

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◎目次

 

安房直子作品との出会い・テーマ作品評(スタッフ)

 はじめに読書会のご説明、スタッフ3名から安房作品との出会い、テーマ作品の印象などをお話いたしました。

 

 「火影の夢」 永島志津夫

読書というよりは図鑑を見ていることが好きな小学生だったころ、国語の教科書で「きつねの窓」にひきつけられました。教科書にありながら退屈な作品ではなく、“面白い” そんな印象でした。中学生になってから偶然、角川文庫版の「きつねの窓」を入手し「魔法をかけられた舌」を知りました。地下街そのものが都会的な異空間なのですが、地下街のなかで別の世界とつながっているという舞台設定に特に魅力を感じ、「魔法をかけられた舌」も忘れられない作品となりました。そして大学生になって、ちくま文庫の「銀のくじゃく」で今日ご紹介する「火影の夢」に出会いました。
「火影の夢」という作品、今いるところは夢なのか現実なのか。現実とは夢の延長であるかのような印象を与える作品です。児童文学という枠に収まりきらないように思えます。
偏屈な骨董屋の主人は、火影の中の小さな娘と魚のスープに30年以上前の記憶を呼び覚まされます。サフランの花、大切な銀の飾り物、出て行ってしまった奥さん・・
銘品に囲まれながらも孤独な人生を送ってきた老人は、娘への気持ちに身をゆだね、戻ることの出来ない夢の世界に足を踏み入れていきます。

クライマックスの一節

“するとそのとき、窓からさしこむ月の光が、まるで青い波のようになって、その小さなへやいっぱいに、ひたひたと満ちてきたのです。”ちくま文庫 P157)

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奥さんへの優しさを取り戻した青年は、津波にのまれます。そして消えてしまった、いにしえの港町の住人として永遠の幸せをえます。

骨董屋に残された小さな鉄のストーブに、小さな娘が現れることはもうないのでしょうか?それとも青年と一緒に幸せな姿を現すのでしょうか?これはみなさんへの問いかけにしたいと思います。問いかけをもう一つ。安房直子さんの作品は絵画的であると言われます。読んでいると自然と情景が浮かんできますね。私は日本を代表する、ある文学者を連想します。ノーベル文学賞を受賞された方ですが、みなさんはどのように思われるでしょうか。

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「鳥にさらわれた娘」 石川珠美

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このお話は、昔話によくある異類婚姻譚で、主人公は、シギに変身させられてしまいます。粗筋だけ拾うと、恐ろしい話ですが、この変身が私たち読者に引き起こす感情は、恐怖ではなく、むしろ異界にさそわれる甘美さのほうではないでしょうか?
この作品の中で「海」は、魔力のあるシギの棲家、一種のユートピアです。主人公がシギに変身してしまうのは「罰」ではなく、シギとのロマンスとして、辛い人間界を捨て、シギの住むユートピアへ解放されるという結末になります。
安房さんは多くの異界に誘われるお話を書いています。いずれも自ら進んで囚われ、異界の甘美さに身を浸す作品ばかりです。「海」が舞台の「火影の夢」「海の口笛」も、ともに帰ってこない結末を迎えます。「夢の果て」の少年と少女は紙人形のように海に落ちていきます。「海」は、「人を日常から引き離すもの」「得体のしれない吸引力を持つもの」なのです。

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「夢の果て」 仁藤眞理子

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美しい目をした13才の娘がドリーム化粧品の青いアイシャドウをつけて眠ると、青いアイリスの花畑をどこまでも走って行く夢を見る様になる。青い花の果てに自分の美しい目を見てくれるはずのすてきな人がいる様な気がして、誰かに出会う為に、毎晩アイシャドウをつけて眠る様になる。この部分が私はとても好きで、そんな娘時代の気持ちに懐かしさを感じる。物語はついに夢の中の背が高い若者に出会えるが、その後に起こることは、恐ろしい予知夢の様にも読める。が私は安房メルへンを現実の世界に置き換えてしまいがちで、娘が走り続けた青い花畑は子供時代の青い日々であり、若者の吹くトランペットは二人の出会いの祝祭の音色の様に聞こえる。そして手をとり合って人生の大海原に二人で飛び込んで行く若者達の将来を暗示している様。美しい瞳でにっこり笑っているだけで幸福が手に入ると思っていた高慢な娘の夢の様な時間は、もうすぐ果ててしまうことを、アイシャドウをつけて背のびしたことで、ひと足先に知ってしまったのではないでしょうか。

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安房直子作品との出会い(参加者)

この後、参加者の皆さまとスタッフが一緒になり、安房作品との出会いや、印象などをお話頂きました。その中から一部をご紹介します。

 

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出会いは小学生の時です。母のものだった『南の島の魔法の話』(講談社文庫)を読んで、一度で虜になりました。図書館で手にとれる物は全て読みました。それ以来、ずっと好きです。周りに安房さん好きはいませんでしたので、誰にもわかってもらえませんでした。キンモクセイの時期には「花のにおう町」、桜の散る頃には「緑のスキップ」の話をしてみたい。そう思っていました。この会に来られて、夢のようです。
安房さんの描く「海」は、憧れでもあり、恐怖の対象でもあります。「夢の果て」の少年少女は海に吸い込まれるように落ちていきますし、「さんしょっ子」は風にのって海へ向かいます。「海」は、得体の知れない生き物が住んでいる、底知れない場所です。「鳥」の魔女は、海のほとりに住んでおり、海の魔的な力を借りている怖い不気味な存在です。「鳥」の冒頭で、「どこから来たんだい?」と聞かれた少女は「海から。」とだけ答えます。それだけで潮風を感じさせ、少女がこちら側の者ではないことを予感させる、すばらしい導入部です。
大学時代の卒論は、安房直子論でした。「食べること」と「眠ること」をキーワードに書きました。異世界と交流することが多い安房作品、動物と人間が会食する物語がたくさんあります。ものを食べる事により、異世界に行ってしまう。「花びらづくし」等は眠りを我慢して我慢して、「こちら側」に戻ってきます。この二つのアクションが、重要なキーワードではないか?と考えたのです。(るいさん)

 

絵本の「雪窓」が安房作品との出会いです。子供に読み聞かせていたのですが、安房さんは心のきれいな人だと思いました。英訳された "The Fox's Window and Other Stories"を読み、寂しさとか喪失感の描き方が魅力的だと思いました(バラさん)

 

小学生の頃に、「きつねの窓」と、出会いました。その後、大学生の兄が、『南の島の魔法の話』(講談社文庫)を貸してくれたのを読み、一気に引き込まれて、それ以来、ずっと好きでいます。このような、安房作品の話をできるのが、嬉しいです。私は、外国語を勉強しています。フランス語です。いつか、安房さんの作品を、フランス語に翻訳する事が夢です。(朋子さん)


小学校3年生の頃、『天の鹿』が最初の安房作品です。安房さんの文章はアニメなどよりも絵画的で、情景描写が強く印象に残りますね、食べ物とか着物の柄とか。大人になってからも、ふと思い出します(めぐみさん)


安房さんとの出会いは最近で、四、五年前の事です。もともと絵本が好きで、図書館で「あ行」から探している中で、安房直子さんと出会ったのです。『きつねの窓 』 を手に取りました。それから「安房直子さん」をネットで検索し、安房さんの女学生の頃の写真を拝見し、この人には会った事がある、という思いを強くしました。昔、同僚だった人ではないか?と思えたのです。不思議なご縁を感じました。(まゆみさん)


「きつねの窓」が好きです。大人になってから、本屋で出会い、懐かしく思って手に取りました。教科書にしては「入り込める」お話であると、小学生の時に思ったのです。
安房さんの作品には、私達への「忠告」が書かれている事があります。良くない感情を持つと、「罰」があたる。読みながら、自分自身も考えさせられるのが、安房さんの魅力です。(みかさん)


今回の読書会の中では、「火影の夢」が好きです。海の近くに住んでいるので、とても惹かれるものを感じます。(まゆこさん)

 

「夢の果て」のドリーム化粧品を買いたいです。安房作品は大好きなので、人には教えたくないと思ってしまいます。(かおりさん)

 

「日暮れの海の物語」で安房直子さんを知りました。安房さんの作品、海とか空とか、青色が印象的ですね。(かずえさん)

 

生前、安房さんは絵のような文章を書きたいと仰っていました、安房さん自身が青色が好きでシャガールの絵が持つ語りを目指していると。(マグノリアさん)


出会いは、半世紀近く前、八歳の頃だと思います。母は読書家で、毎日のように本を買ってくれたのですが、その中で出会ったのが、『北風のわすれたハンカチ』でした。読んだ途端、八歳の子供の頭の中が、「物語」でいっぱいになりました。何度も何度も読み返し、まるで水が溢れるように「物語」が溢れてくるように感じ、いったいどうしたらいいのか。こんな素敵なおはなしがあるのだと。どうしたらよいのかわからないまま、鉛筆を持ち出して、感想文を書きました。それを夏休み明けに学校で提出しました。『北風のわすれたハンカチ』は、牧村慶子さんの挿絵で、本当に可愛らしく、食べ物は美味しそうで、母に、ここに出てくるホットケーキを焼いてくれ、と、頼み込みました。パンをこねている場面や、カップケーキを差し出す場面など、とにかく、「食べたい!」と。どんなに食べたいと思ったことか、半世紀近く経った今でも忘れません。
自分が八歳の時に出会っているので、子供たちにも読ませたいと思いました。どのような環境なら安房作品を子供達は読んでくれるのか。環境を整え、伝えていくのが、私たち周りの大人の使命であると思うのです。(安齋)

 

安房作品との出会いは、小学校低学年の時、『銀のくじゃく』です。『銀のくじゃく』と『白いおうむの森』の両方を読んで、このような幻想的な物語に出会ったのは初めてのことで、とにかく惹きつけられ、夢中になりました。『銀のくじゃく』と『白いおうむの森』の挿絵は、赤星亮衛さんです。赤星さんの挿絵は、子供じみていない、実に魔術的で不思議な魅力のある挿絵で、この挿絵にも強く惹かれました。お手元の『安房直子のお料理レシピ~秋冬』は、私が書きました。手にとっていただけて嬉しく思います。(石川)


生前、安房直子さんはダイニングキッチンのテーブルで原稿を書くことが多かったそうです。作品にお料理が登場するのもそのためかもしれませんね。

 

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◎秋の会 参加者アンケートまとめ

本日の催しについて

・満足度について
 とても有意義だった。知人にも紹介したい・・・7人
 有意義だった。また参加したい・・・6人
 期待していたものとは違っていた・・0人
 不満が残る・・・・・・・・・・・・0人

(コメント)
*これまで安房さんについて語りあえる場がなく、今日初めて皆さんの話を聞けて本当に嬉しく思いました。自分以外の人の口から「火影の夢」「さんしょっ子」という言葉が聞けるとは・・・! 料理本は、ずっとあればいいのにと思っていたものです。ぜひ春夏版も重版いただきたいです。また、海賊も,お手紙や直筆原稿も拝見できて感動しました。亡くなってこんなにたっているのに、まだ読んでいない作品があることが嬉しいです。
安房さんと親しかった方もいらっしゃって、おもいがけないお話しもお聞きできました。皆さんから作品の紹介をいただき、時間を作ってまた読みたいなと思えました。すばらしい会をありがとうございました。
*色々なもの(本)、お話しが聞けて面白かったです。スタッフさんのサポートがありがたかったです。レシピ本は夢のような企画でとてもうれしいです! 海がテーマだからか、スタッフさんの青っぽいお洋服ステキでした。
安房直子さんの作品についてこんなにお話しした事ははじめてでした。とてもしあわせな時間でした。
*読書会には初めて参加しました。安房作品がお好きな方が沢山いる空間、とても楽しかったです。
安房さんゆかりの場所でできるのはいいですね。
*今日参加できて本当に良かったです。安房さんゆかりの土地での読書会、楽しみにしていました。貴重な書物を手にとって見ることができて感激です。これからの活動(朗読)に生かしていきたいです。
*とても楽しい会でした♪ もっと長くてもいいかな、なんて思ってしまいました(笑)
*私の大好きな作品を読んでいた方がいて、そのお話ができて、とても楽しかったです。ぜひまたうかがわせて頂きたいです。

今後の催しについて

・期待すること
 安房直子さんについて知る機会が欲しい・・・・・・・・・8人
 朗読会など安房さん作品を鑑賞する機会が欲しい・・・・・7人
 安房さん作品についてお互い話ができる機会が欲しい・・10人
 日頃からSNSを通じて安房さんファンと交流したい・・・3人


(コメント)
*皆さんの好きな作品を聞けるだけでも幸せです。安房直子さんの文章の素晴らしさを世の中の方にもっと知っていただきたいと思います。皆さんの好きなフレーズなど話しあってみたいです。
*お料理会などもやっていただきたいです。
*今回も幸せな良いひとときを有難うございました。
*あまり大げさにせず半年に一度くらい参加したいなあと思います。安房さんのお人柄を私も大切にしたいと思います。
*若い方が増えて嬉しいです! これからも開拓を・・・。ツイッターの効果抜群ですね。よろしくお願いします。
*遠方のため、日曜日の開催でしたら参加できると思います。
*ここでの出会いを楽しみにしています。
安房直子さんの世界について生前のご本人のお話を伺ったり、解釈をしていただいたり、なかなかない機会を与えていただきありがとうございました。外国の方に安房文学が読まれていることにも大変嬉しい思いがいたしました。伝わるものなのですね。
*SNSの活用、とてもよいと思います!
*とりあえず田無の図書館へ行こうと思いました。
*子供にも安房さんの作品を知ってもらいたいですから、できれば絵本の朗読会をしてほしいです。

会計報告

多額のカンパを頂きました!参加者のみなさま、ありがとうございました。有効に役立たせていただきます。

収入
  参加費(13名×500円)     6,500円
  寄付(レシピ本著者石川さん) 5,000円
  カンパ(参加者の皆さん)   7,220円
  合計             18,720円

支出
  飲み物            1,687円
  クッキー           3,800円
  合計             5,487円

残金               13,233円

 *残金13,233円は、全体会計に繰り入れます。カンパのご協力をありがとうございました。

 *全体会計は、年度末(3月末〆)にご報告いたします。

 

次回、春の会は3月を予定しています。追ってお知らせします。

 

ライラック通りの会・秋の会「“海”が舞台の安房直子作品の読書会」のお知らせ

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10月20日(日) “海”が舞台の安房直子作品の読書会を開催します

秋の会は読書会形式です。参加者同士が近い距離でお気に入りの作品、その魅力を紹介し合い、新たな魅力を発見していただく、そのような場にしたいと思っております。
数多い安房直子さんの作品の中から“海”が舞台の作品を選定しました。

初めに、3つの作品の魅力をライラック通りの会スタッフが紹介させていただきます。その後小グループに分かれて、皆さま同士でお気に入り作品を紹介し合い、魅力を共有していただきたいと思います。各グループにはスタッフがついて進行をサポートいたします。
新鮮な気持ちで魅力をご紹介頂くためにも、お気に入りの作品を今一度読み直していただければと思います。よろしければ、お手持ちの本もご紹介下さい。

また会場では、貴重な直筆原稿や手紙(複製)、単行本未収録作品の一部をご覧いただける展示コーナーや、安房直子さんについて知ることができる記録誌 「こみち」1号、 作品にちなんだイラストカードの販売も行います。
お申込みはライラック通りの会事務局までメールでご連絡を。
( awanaoko.lilac@gmail.com あて。35名様、先着順にて受付終了 )
安房直子さんの作品について語り合う貴重な機会です。奮ってご参加ください。

 

 “海”が舞台の安房直子作品

太字の作品をスタッフが紹介します)

作品名 発表 登場人物 食べもの 主な収録単行本
青い貝 1976 少女   「夢の果て」瑞雲舎
赤い魚 1977   「日暮れの海の物語」角川
あきのはまべ 1990     「一年生のおまじない」偕成社
海からのおくりもの 1979     「だれにも見えないベランダ」講談社文庫,「まほうをかけられた舌」フォア文庫
海からの電話 1976 音楽学校の学生 砂のお菓子 「だれにも見えないベランダ」講談社文庫
海の色のカーテン 1986     「おしゃべりなカーテン」講談社
海の口笛 1983 かけはぎ屋 魚のバター焼き 安房直子コレクション2」偕成社
海の館のひらめ 1980 シェフ 魚のかたちのパイ 「遠い野ばらの村」ちくま文庫、「安房コレ2」
海の雪 1975 少年   「夢の果て」サンリオ(雑誌収録時タイトル「白いかさの下で」)
海へ 1976     単行本未収録
大男のうきぶくろ 1972 大男   単行本未収録
奥さまの耳飾り 1977 女中   安房コレ6」
貝の電話 1972     単行本未収録
金の砂 1981 漁師   単行本未収録
木の葉の魚 1977   「南の島の魔法の話」講談社文庫、「安房コレ6」
さよなら海 1962     詩。単行本未収録
空色のゆりいす 1964 いすつくり   「風と木のうた」偕成社文庫、「安房コレ1」
誰も知らない時間 1971 漁師   「風と木のうた」偕成社文庫、「安房コレ1」
とげ 1967     単行本未収録
1971 耳の医者  

「風と木のうた」偕成社文庫,「南の島の魔法の話」講談社文庫,「安房コレ1」

鳥にさらわれた娘 1982 海草のシチュー 安房コレ5」、「鳥にさらわれた娘」モエノベルス
日暮れの海の物語 1976   「だれにも見えないベランダ」講談社文庫、「安房コレ6」
ふしぎなシャベル 1978 おばあさん   「遠い野ばらの村」ちくま文庫、「安房コレ2」
火影の夢 1975 骨董屋 魚のスープ 「銀のくじゃく」ちくま文庫、「安房コレ6」
南の島の魔法の話 1978 翻訳家 魚の刺身 「南の島の魔法の話」講談社文庫、「安房コレ2」
夢の果て 1974   「夢の果て」瑞雲舎講談社文庫、サンリオ

 

日時とアクセス

日時:2019年10月20日(日)午後2時から4時、1時半受付開始
場所:保谷駅前公民館5階、第二学習室

参加費は会場受付にてお支払い下さい

 ¥1000円(安房直子のお料理レシピ・秋冬版 頒価¥1000とセット)

 または¥500円、いずれもペットボトルの紅茶とクッキーが付きます。

 

保谷駅へのアクセス
池袋駅から西武池袋線
 13:11発で13:39着
 13:32発で13:48着
吉祥寺駅から西武バス
 13:01発で13:36着(吉63)
 13:15発で13:46着(吉66)

 

春の会「春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会」のご報告

2019年4月14日(日)午後2時から、日本女子大学同窓会館・桜楓館において、ライラック通りの会・春の会を開催しました。参加者は子ども2名を含む45名、出演者5名、スタッフ7名で総勢57名とにぎやかな会になりました。

春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会

目次

 

出演者の方々から一言
 

 

「コロッケが五十二」を読んだ川島 昭恵です。

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 私はこれを初めて読んだとき、なんて弾けて愉快なお話なんだろうと思いました。
安房さんの心の中にこんな世界もあるのですね。クッキングなお話をということで、すぐに浮かんだのがこの話です。今回は会場の皆さんと安房さんの弾ける世界をご一緒に分かち合えたらいいなと思いました。

 

すずめのおくりもの」を読んだ永田陽二です

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 当日は天候が危ぶまれましたが雨に当たる事なく無事盛況のうちに公演が行なわれ本当に良かったです。今回演じました「豆腐屋さん」は頑固だけど心の優しい職人さんです。個人的な話ですが父が大工で母が洋裁屋という家庭に育ちましたので安房作品に出て来る様々なお店屋さんにはついつい感情移入してしまいますね。
 構成演出の立場からは、特に短編集「風のローラースケート」の第一話と第二話が続けて上演出来たのが今回の大きな収穫でした。桜楓会館の小空間に峠の茂平茶屋の風景がフワリと浮かんで来るようでした。そして「コロッケ」の躍動感と「ゆきひら」の叙情。皆さん本当にありがとうございました。
安房さんの心の中にこんな世界もあるのですね。クッキングなお話をということで、すぐに浮かんだのがこの話です。今回は会場の皆さんと安房さんの弾ける世界をご一緒に分かち合えたらいいなと思いました。

 

ゆきひらの話」を読んだ野田香苗です

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 安房さんのお話を聴きたい皆さまとの貴重な時間を共有させていただきどうもありがとうございました。秋・冬には「ゆきひらの話」を思い出して下さると私も嬉しく思います。絵本にはりんごの甘煮の作り方も載っています。美味しいので是非お試しくださいませ

 

風のローラースケート」を読んだ森田麻知代です

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 うららかな春の日に、たくさんのお客様と安房直子さんの作品を味わう(まさに味わうような美味しいお話ばかりでした)ことができ、大変嬉しい一日でした。

出演者の皆様はベテランさん揃いで、その中に入れさせていただくのはいささか緊張いたしましたが、とても勉強になり、何より楽しかったです。また、安房直子さんのお話で朗読作品を創りたいと思いました。このような機会をいただけましたこと、感謝いたします。

 

「月夜のテーブルかけ」を読んだ 中村悦子です。

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 安房さんの“クッキングな作品”の多さ!その知識の豊富さに改めて驚きます。春の会の後東北へ出かけた時、たんぽぽの花が一面に咲いている野原を見てすぐ「たんぽぽの花のサラダ」が頭に浮かびました。が、さてどう料理するんだったかな?「お料理レシピ」の本を持ってくればよかった・・・

 

 

スタッフから一言 

 音響・照明を担当した 安倍久美子です。

 

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美味しそうな食べ物の数々に、こっそりヨダレを拭きながらのオペレーションでした。作品に登場した食べ物がどうしても頭から離れず、当日の夕食はコロッケと、ベーコンのポトフと、野草(風)のサラダと相成りました!
音響・照明として安房さんの世界の一部に加わることができたことに感謝いたします。

 

安房直子のお料理レシピ~春夏~』の編著を担当した石川珠美です。

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コロッケ譚の最後にホッとし、コミカルな雀達と親父さんに腹を抱え、「母ちゃん」に涙ぐみ、美味しそうなベーコンには涎が出そうに、生意気な狸に吹き出してしまい・・。

和やかで楽しいひとときでした。レシピ本も、完売です!ありがとうございました。

 

安房直子のお料理レシピ~春夏~』の挿絵を描いた仁藤眞理子です。

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45日間で54カット製作とハードスケジュールでしたが、多くの方にご購入頂きありがとうございました。銀座で個展を開催していた味戸ケイコさんも、良い内容だと言って下さったことが大変嬉しかったです。

春の会 参加者アンケートまとめ

  1. 今回の企画の開催を何でお知りになりましたか
    • ライラック通りの会からのメールや郵送によるお知らせ  8人
    • ライラック通りの会のブログ              2人
    • 出演者からの案内                   3人
    • その他                        4人

  *ネット、友人に誘われて、中瀬幼稚園の保護者の方から

  1. 今回の企画について、総合的にはどのような感想をお持ちになりましたか

  ① とてもよかった                  15人        

    *主人と子どもと、家族3人で来ました。安房さんとお料理の話でとても

     楽しかったです。

  よかった                       2人

  1. 今回の企画について、お気づきの点

*また、楽しみに伺います。

*どの作品も、風景・情景が見えるようで楽しめました。安房さんの作品は、温かく、

 ゆかいですネ。5人ともそれぞれの世界があり、すてきです。

*たくさんのお話が聞けて良かったです。

*作品の選択がよい。よく読み込んで発表している。

*音楽をBGMとして使ったのが、初めてで新鮮でした。今日も良いときを大変ありがとうございました。

*心温まる、とても幸せな空間を、めいっぱい感じることができました。来て良かったです。

*BGMから、何から、、、ステキでした。朗読ってこんなにバリエーション?個性でいっぱいなのですね。大好きな安房さんが、もっと大好きになりました。

*とてもすてきな時間でした!ありがとうございました。

*照明に加え音楽があることで、お話全体がよりよく色づく感じでした。

*とてもよい企画でした。安房さんのお料理好きが生きた朗読でした。

*初めて参加しました。5人それぞれ個性があってとてもよい時間でした。また、読むだけとは違う作品のような感じがしました。

*朗読会は2回目です。朗読は < 静 >と思っていましたが、< 動 >なのにはびっくりしました。動きに目を奪われ、お話がとんでいった所もあります。

*場所が分かりにくかったのですが、案内の方がいらしたので助かりました。

 

  1. 次回以降の企画について、希望されること。

*共通テーマがあるというのは、分かりやすく聴きやすい。この形式をしばらく続け

 て欲しい。音楽の使い方が面白く、テーマをよく引き立てている。新しい演出も発表してもらいたい。

*もう実施しているかもしれませんが、季節をテーマにした朗読会を企画してほしい。

*どういう形の朗読会でもいいものだと思いました。

*次回が楽しみです。

料理本、とても楽しみでした。また、こういうものがあると嬉しいです。安房さん

 の話は食べ物がとても美味しそうなので、朗読ももちろん」楽しかったです。次回

 も楽しみにしています。

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会計報告

 

収入: 参加費 (大人43名、子ども2名)     88000円

     寄付 (石川、仁藤)          6000円   

     チラシ印刷レシピ本広告負担分      1000円

     合計                  95000円

 

支出: 出演者への支払い             23000円     

    演出および機材借用謝礼          30000円

    会場費                  21492円

    出演者・スタッフ昼食代          11640円          

    チラシ印刷代                4582円 

    チラシ送料ほか                  3375円

    合計                   94090円

残金                         910円  

  *残金の910円は、全体会計に繰り入れます。

    *別途寄付金1万円をいただきました。年度末に報告させていただきます。

 

 

次回のライラック通りの会のお知らせ

次回、秋の会は安房作品をめぐるブックトーク<テーマは海>」です。

安房作品の中で取り上げられている海のイメージを、参加者同士で語り合いましょう。

話題提供者として、出演者を5名募集します。トーク時間は1人10分。

出演を希望される方は、作品名とともにご連絡ください。7月末日締切です。

 

日程は、10月6日(日)か20日(日)の午後、会場はいつもの保谷駅前公民館を予定しています。

*日程も会場も、抽選結果次第ですので、8月8日以降、決まり次第お知らせします。

ライラック通りの会・春の会 「春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会」のお知らせ

安房さんの母校、日本女子大学同窓会館にてー

日時:2019年4月14日(日)13時半~16時(予定)

場所:日本女子大学桜楓会館1号館1階講義室

参加費:2000円

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春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会

春の会で朗読される安房直子作品と朗読者のひと言


1. 「コロッケが五十二」 川島 昭恵

 安房さんの作品に出会ったのは中学生の時です。その不思議さ、面白さ、どきっとする怖さ、そして優しさ、私はぐいぐい引き込まれていきました。大人になって読むと、その作品の中に新たな深さ、広がりや豊かさに気づかされる思いです。


2. 「すずめのおくりもの」 永田 陽二

安房作品の王道パターン「主人公のお店屋さんに動物が訪ねてくる」系の小品です。前回は柄にもなく恋するウサギ君を演じましたが、今日はアダルトに小さなスズメ達を見守ってあげようと思います。


3. 「ゆきひらの話」 野田 香苗

 安房作品に登場するお料理は、私も楽しみの一つです。この作品を絵本で知り、歌があることも安房さんらしいなと思いました。美味しいものは心身ともに温めてくれます。ところで、皆さんはゆきひらを知っていますか?


4. 「風のローラースケート」 森田 麻知代

 茂平さんが作ったベーコンを泥棒したイタチ。茂平さんは別のイタチから借りたローラースケートで追いかけますが…?日本全国の子供達に向けての巡業公演を経験してきました。各地の美味しい物を食べるのが大好き!


5. 「月夜のテーブルかけ」 中村悦子

朗読会やお話会で何度か、季節にあった安房作品を取り上げてきました。美しい景色、自然の呼び声、そして美味しいお料理!今日は今の季節、食卓にぜひ並べたい山菜のお話です。実生活の料理の腕は…ですが…

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安房直子のお料理レシピ

春の会では、会員の石川珠美さん編著安房直子のお料理レシピ~春夏~」の頒布もあります。イラストは、同じく会員でスタッフの仁藤眞理子さんです。頒価500円。

春の会の会場以外で、お申し込みされる方は、案内チラシにあるメールアドレスまで、直接ご連絡ください。

ライラック通りの会・春の会「春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会」出演者募集のお知らせ

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下記の要領で、ライラック通りの会・春の会の出演者を募集しています。

 1. テーマ

 「春の日に安房直子のクッキングな話を聴く会」
  演出・構成 永田陽二さん 

 *安房直子さんの童話には美味しそうな料理が登場する作品が多くあります。
  今回は料理をテーマにした朗読会を企画いたしました。
  会員の石川珠美さんは安房作品に登場するお料理の「レシピ本」を作成中です。

2. 日時
  2019年4月14日(日)13時半開演、前日の13日(土)に朝からリハーサル

3. 会場
 桜楓(おうふう)会館(日本女子大学同窓会館)、リハーサルも同会場
(JR目白駅から徒歩13分、又は都バス5分、東京メトロ副都心線雑司ヶ谷から徒歩7分

4. 出演者ならびに作品名
  4~5名を公募 1人20~25分

 *一昨年の1月の会と同様、プロまたはセミプロの方の応募をお待ちしています。
  時間制限とテーマに合う安房作品を選んで、作品名とともにご応募ください。
  応募者多数の場合は、演出・構成の永田陽二さんとスタッフで調整させて頂きます。

5. 会費および出演料
 前回の会と同様、当日の会費は2,000円を予定
 出演料は、出演者ご自身が呼ばれた(チケット販売された)観客の人数分×1,000円

 6. 公募締切と申し込み先
  3月10日(日)

 *ライラック通りの会のメールアドレスへ、郵送の場合は郵送版事務局宛にお申し込みください。

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秋の会「安房直子作品によるビブリオバトル Vol.2」のご報告

ライラック通りの会では、昨年より「秋の会」としてビブリオバトルを開催、

今秋2回目を迎えることができました。

「必要なものはたった1冊の本だけ!」

それなのに、ビブリオバトルの効果は、こんなにも

限りなく広く、果てしなく深いのだ、ということを早くも2回目の開催にて

実感する大成功の「秋の会」だったと思います。

まさにビブリオバトルの神髄である

「人を通して本を知る、本を通して人を知る。」

キャッチフレーズ通り、思いがけない作品に出合うことができただけでなく、

バトラーはもとより、参加者全員の、人となり、はたまた秘めたる才能の発見、

と人生を変える「出会い」があったこともお伝えしたいと思います。

 

目次

 

5人のバトラーの発表(本人による要約)

 

1.「秋の風鈴」   仁藤眞理子 

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 この物語は、ひとり暮らしの貧乏な絵描きのもとに、苦情のハガキが届くところから始まります。秋になっても、しまわずにいたお気に入りの風鈴の音がうるさいので、みんなが寝不足になっているというのです。

 いったい、どんな人達が不満を持っているのか、思い悩むうち、意地になってそのままにしていました。すると、十日ほどたって、きもがつぶれる様な出来事が起きて、ついには、風鈴をしまうことにしました。

 いったい何が起こったのか? そのあと、水の底にでも沈んだような日々を送っていた主人公ですが、ある朝何もかもすっかりなっとくして、心が晴れることなるのです。そこから安房メルヘンの謎解きが始まります。

 そして最後には、主人公と共に、私達をとりまく身近な自然を愛おしく思うのです。

 私は、この作品を1974年12月号の「詩とメルヘン」で初めて読みました。それは味戸ケイコさんの挿絵で、すきとおる様な美しい秋の風景が描かれていて、安房さんの作品をいっそう引き立てて、今も心の中に焼きついています。

 

2.「ふしぎな文房具屋」 尾上エミ子

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 ある町に、おじいさんが店番をしている小さな文房具屋がありました。ここでは、何でも消える消しゴム、何でも吸い取ってくれる吸いとり紙や虹から色をもらった絵の具など変わった文房具を売っていました。

 ある冬の日暮れどき、大事にしていた猫が死んでしまったという大きな悲しみを抱えた女の子が、悲しみを消す消しゴムを買いに来ました。

 おじいさんが描いた水仙の絵の中に、死んだはずの猫を見つけた女の子は、おじいさんに猫に会わせてほしいと頼みました。そして、おじいさんが作ったふしぎな眼鏡であの猫に会うことができました。

 猫と遊んでいるうちに女の子の心は喜びでいっぱいになり、楽しくて、いつのまにか悲しみを忘れていました。けれど、なぜか猫は空に昇って行ってしまいました。

 女の子は、思わず出て来た涙を拭くために眼鏡をはずしました。

 気がつくと、そこはお店の中でした。

 おじいさんは「帰ってきましたね。猫におわかれをしてきましたか」と聞きました。

 女の子は、にっこり笑って消しゴムと吸いとり紙をもらって帰りました。

 

3.「空色のゆりいす」 岡野尚子

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  空色のゆりいすは安房さんが二十歳のとき書いた処女作に近い作品です。
若いいすつくりの夫婦に生まれた目の見えない女の赤ちゃんが空色のゆりいすに座って心の目で空の色を覚えるというお話です。安房さんは色というものを言葉の力だけでありありと伝えてみたいと思っていたそうです。
 いすつくりは、ある日こくりと青い空を見て生まれつき目の見えない自分の子にたった一つの色を教えられるのなら空の色を教えたいと思いました。枯草の中にちょこんと座って空の絵をかいていた小さい男の子、実は風の子は、本当の空色は空からもらうんだよと言って、空から空色をもらう方法を教えてくれます。この場面のいすつくりと男の子のやりとりがとても可愛らしく、不思議で、この辺から幻想の世界へ引き込まれてしまいます。女の子は空からもらった空色をぬったゆりいすに座って空をおぼえます。ゆりいすというひびきもかたちもお話の世界へ誘うようです。こうして女の子は紅バラの色も海もおぼえます。何年もたち、風者の子は若となっていすつくりの弟子にしてほしいといってあらわれます。女の子にはその若者が空色をくれた人だとすぐに分かり、幸せなお嫁さんになります。
 いすつくり夫婦と女の子は生まれつき目が見えないという深い悲しみを静かに受け止めて、毎日の何でもない生活と自然の中で幸せになっていくのです。悲しみを底に秘めたやさしさが心に残ります。

 

4.「ねずみの福引き」 山崎よし子

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 すすきの原っぱやひと気のない林の小道、そんなところにその世界はきっとある…と思わせてくれたのが「ねずみの福引」のお話です。

ある時とうふやさんは、「とうふ1丁」を持参するという条件つきで、「ねずみの福引」に誘われます。辿り着いたねずみの町はお祭りの真最中で、

人間界と少しも変わらず、なんと酔っ払いまでいます。

 さて目的の福引は、というと賞品はなかなかで、1等は「たんすひとさお」から始まって、5等の残念賞は「花火1本」まで。

花火を引き当てて少しがっかりしたとうふやさんに、ねずみはささやきます。「いい花火ですよ、みんなが欲しがります」。

 とうふ1丁は寄せ鍋に姿を変え、パーティを盛り上げました。そして華やかなフィナーレに、線香花火がみごとな打ち上げ花火となって花ひらいたのです。

とうふやさんはその光景に目が潤みます。1本の線香花火がくれた感動を思いながら、夜道を急いだのでした。

心を揺さぶられる感動というのは地球の片隅に住むねずみからさえももらうことができるーこのお話はそれがテーマなのでしょうか。

私は、ちいさな感動のつみかさねで、私たちは心優しくなれるのかもしれないという、安房さんのメッセージを思うのです。

 

5.「雪窓」 永田陽二

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この作品には安房ワールドを構成する魅力的な要素が5つ入っています。

1「お店屋さん」本作では屋台のおでん屋さん。

 スピルバーグ映画の如く屋台が坂道を暴走する場面にドキドキワクワクです。

2「孤独な主人公」妻子を亡くした「ひとりぽっち」のオジサンが主人公。

 病気の6歳の娘を背負って雪の峠を越える回想場面に思わず泣きそうになり

 ました。

3「人語を喋る動物」タヌキが脇役として登場。

 オジサンを健気に支える彼にはぜひ助演男優賞を贈りたい。

4「失った人との再会」亡くなった娘が16歳に成長した姿でオジサンの前に現

 れます。

 哀しい出会いがたまらなく美しい。

5「死の世界への恐怖」森の中で襲いかかるモノノケ達。

 苦難を越えて隣りの村を目指すオジサンとタヌキの冒険を盛上げます。

起承転結の構成が絶妙な快作。新版の絵本を特にオススメします。

 

               🌷  🌷 

参加者によるディスカッション

秋の風鈴 

尾上 :今の季節にぴったりのお話!

    仁藤さんはよく、この作品を選ばれたと思いました。

生沢 :今の時代にもありそうなお話。それを安房さんは20年も前に書かれた。

みんな:ほんとに。冬でも風鈴を吊るしたままの人もいる。

参加者:そんなよくある情景を、よくこのようなファンタジーに仕立てた。

    素晴らしい。

仁藤 :最初「詩とメルヘン」で読んだが、味戸さんの絵も、マッチしていて印象深かった。

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ふしぎな文房具屋

尾上 :私の場合はワンちゃんだったが、高齢で死んだ時の悲しさやうつろな気持ちが、この作品の少女に投影されて、深い癒しを感じさせてくれたので、バトラーとして取りあげた。

岡野 :死ぬときは人も動物も力が弱り汚くなる。けれどこのお話では、スイセンのすてきなところを見られて、きれいなネコになっていった。

参加者:この作品の深いテーマを、教えて頂きました。

    今まで、読み過ごしていた作品です。

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空色のゆりいす

岡野 :安房さんは20台で、大学のレポート代りに書いた作品だという。安房作品にはよく死の影暗い影が見えるが、この作品では影が、こっくりとした空の色とか、紅バラ色のとろりとした絵具とか、美しい色にとって代わられている。

山崎 :あたたかい厚いひざかけのような色、シレソの和音のような色、とか。私には孫が3人いますが、青、という名前の子もいます。

   (…ワア、とみんな。)

参加者:うちには空(そら)という名前の子がいます。

   (…ワアア、とみんな。)

 

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ねずみの福引き

山崎 :安房さんのちいさいひとへのお話を取り上げました。ねこじゃらしの原っぱには、ことりやねずみまで来るんですよね、そんな世界のお話です。

尾上 :安房さんのお話って、よくおとうふ屋さんがでてきますね。

南  :おとうふという食べ物については、特に「すごく好き」とは聞いていませんでしたけど。

生沢 :安房さんとは、仲間と鶯谷の「笹の雪」という豆腐料理の店に行ったことがありますけど、そのあと「おとうふ屋さんのお話、書きたい」と言われていたそうです。

蓮見 :あのー、南さん、生沢さん…お二人は「花豆の会」時代の世話人で、現スタッフの窪さんと蓮見も共に、安房さんが日本女子大山室静先生の児童文学特論というゼミの聴講生だった時に、有志で同人雑誌「海賊」を始めたのが、友人になったきっかけです。

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雪窓  

永田 :私は、やはりこの作品がいちばんだな、という気持ちがありました。

    ①お店というなじみの設定、②主人公が独りぼっちということ、③モノ言う動物がいる…この作品のたぬきは、さしづめ助演男優賞といった活躍ぶり(みんな、爆笑)、④失った大切な人と再会するというテーマがあること、⑤死へと向かう恐怖に引きずり込まれそうになる、ユーモアを越えた世界に泣きそうになる…など、安房ワールド集大成の作品だと思ったんです。

拝野 :「雪窓」の、どのシーンが永田さんは一番好きでしたか?

永田 :うーん、…手袋をわすれた娘の後を追いかけていくところ。あのくだりはたまらなかったなあ。

拝野 :私が一番印象に残っているのは、冬の月夜、熱を出した娘をせおって森や峠を駆け抜けて医者へ連れていったら、美代は冷たくなっていて。…

    それで、おやじさんは、今通ってきた道のいったいどこで、美代のたましいは飛んで行ってしまったのだろう、って思うのですよね。あそこ、すごく胸を打たれました!

蓮見 :私は、雪窓、おでんの屋台が、坂道をゴロゴロ転げ落ちていくというシーンが印象深かったです。誰の映画でしたっけ、階段を赤ちゃんの乗った乳母車が転げ落ちていくという場面があったけれど、あの映画とは違った、雪窓がゴロゴロ坂を下っていって、思い切った場面が転換する効果的な物語になっていて、素晴らしいと思いました。

石川 :乳母車が階段を落ちていくというのは、エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」という映画です。

石川 :あのー、おでん屋さんの話もそうですけど、私は安房作品には、魅力的な食べ物のお話がすごくたくさんあるので、ぜひどなたか、料理のレシピ本を書いて頂きたいです。

窪  :それはぜひ、石川さんご自身がなさってください、応援します。(笑)

永島 :小学校時代に、教科書で「きつねの窓」を読んだのが、はじめての安房作品との出会いです。僕は理系出身ですが、とりつかれて以来40余年、読み続けてきました。今日はとても充実した会に参加できてよかった!

浅沼 :ライラック通りのブログを読んで、初めて参加して、よかったです。

   (…ワア、とみんな。)

秋葉 :私もホームページを見て参加した。私は朗読のサークルに参加している。発表会では安房さんの「日暮れの海の物語」を読みます。

   (…ガンバッテ、とみんな。) 

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                🌷  🌷

 ディスカッションが終わって、皆それぞれで悩みながら、どの作品を読んでみたいか、それぞれが一票を投じた結果、今回のビブリオバトルのチャンプ本は、「雪窓」に決まりました。

 今後の「ライラック通りの会」のビブリオバトルの展開がますます面白くなってきました。

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 最後にビブリオバトルの公式ルールをおさらいしておきましょう。

 

ビブリオバトル公式ルール

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本をもって集まる。
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを
    2~3分行う。
  4. すべての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を

    基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めものを

    「チャンプ本」とする。

  しつこいようですが、チャンプ本は「どの本が一番読みたくなったか?」が投票基準であり、あくまでも発表の良し悪しを競うものではありません。

 

 次回は2019年、秋に開催の予定です。
 このブログをご覧の方々も、われこそは!と思われる方、ふるってご参加ください。

   

お知らせ

 この会のあと、石川さんからご自身でまとめられた安房作品に出てくるレシピ本の魅力的な表紙とともに原稿が送られてきました。冊子にまとめたものを実費で分けてくださるそうです。入手なさりたい方は、石川さんに直接お問い合わせください。

メルアド:wildthingsgarden117@gmail.com です。 

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 次回のライラック通りの会は、2019年に春に開催予定です。お楽しみに。

 

ライラック通りの会・秋の会「安房直子作品によるビブリオバトルVol.2」開催のお知らせ

 

 安房直子記念~ライラック通りの会~2018秋の会

            awanaoko.lilac@gmail.com

 

                 安房直子作品による
     ビブリオバトルVol.2

 

                      日時:9月29日(土)午後2時~4時
      場所:西東京市田無公民館3階会議室(西武新宿線田無駅南口徒歩3分)
      参加費:無料 
       観覧ご希望の方は上記アドレスまで、ご連絡ください。
       当日参加もOKです。

 

 

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      バトラーと紹介作品    ①尾上エミ子 「ふしぎな文房具屋」
                   ②岡野尚子  「空色のゆりいす」
                   ③山崎よし子 「ねずみの福引き」
                   ④仁藤眞理子 「秋の風鈴」
                   ⑤永田陽二  「雪窓」

 

     安房ファンタジーの世界をのぞいてみてください。
     あなたも読んでみたくなる作品にきっとであえるはずです。

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  隣接の西東京市中央図書館にはすべての安房直子作品がそろっております。
  この機会に、ぜひおたちよりください。