安房直子記念〜ライラック通りの会

童話作家 安房直子さんの世界を語り継ぐ

安房直子さんの作品世界は、時代を越えて多くの人の心によりそい続けてくれます。
その豊かさをまだ知らない子供たちや、若者、大人たちに、
安房直子さんの作品が広く読み継がれていってほしいと、私たちは願っています。
そのためのいろいろな活動をみなさんと一緒にやっていきたいと、この会を立ち上げました。


世話人 石川珠美 松多有子
スタッフ 永田陽二 野田香苗  イラスト 仁藤眞理子
  事務局 安房直子記念~ライラック通りの会 awanaoko.lilac@gmail.com

秋の会 「“海”が舞台の安房直子作品の読書会」のご報告

 

2019年10月20日(日)午後2時から保谷駅前公民館において、ライラック通りの会・秋の会を開催しました。参加者は18名(内スタッフ5名)、遠方からの方、親子二代でファンという方もいらっしゃいました。半数の方は初参加でファンの広がりを感じました。

会場には安房直子さんの直筆原稿、はがき、作品発表の場となった同人雑誌「海賊」等を展示しました。作品発表当時、昭和40年代の雰囲気を感じることもできました。

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◎目次

 

安房直子作品との出会い・テーマ作品評(スタッフ)

 はじめに読書会のご説明、スタッフ3名から安房作品との出会い、テーマ作品の印象などをお話いたしました。

 

 「火影の夢」 永島志津夫

読書というよりは図鑑を見ていることが好きな小学生だったころ、国語の教科書で「きつねの窓」にひきつけられました。教科書にありながら退屈な作品ではなく、“面白い” そんな印象でした。中学生になってから偶然、角川文庫版の「きつねの窓」を入手し「魔法をかけられた舌」を知りました。地下街そのものが都会的な異空間なのですが、地下街のなかで別の世界とつながっているという舞台設定に特に魅力を感じ、「魔法をかけられた舌」も忘れられない作品となりました。そして大学生になって、ちくま文庫の「銀のくじゃく」で今日ご紹介する「火影の夢」に出会いました。
「火影の夢」という作品、今いるところは夢なのか現実なのか。現実とは夢の延長であるかのような印象を与える作品です。児童文学という枠に収まりきらないように思えます。
偏屈な骨董屋の主人は、火影の中の小さな娘と魚のスープに30年以上前の記憶を呼び覚まされます。サフランの花、大切な銀の飾り物、出て行ってしまった奥さん・・
銘品に囲まれながらも孤独な人生を送ってきた老人は、娘への気持ちに身をゆだね、戻ることの出来ない夢の世界に足を踏み入れていきます。

クライマックスの一節

“するとそのとき、窓からさしこむ月の光が、まるで青い波のようになって、その小さなへやいっぱいに、ひたひたと満ちてきたのです。”ちくま文庫 P157)

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奥さんへの優しさを取り戻した青年は、津波にのまれます。そして消えてしまった、いにしえの港町の住人として永遠の幸せをえます。

骨董屋に残された小さな鉄のストーブに、小さな娘が現れることはもうないのでしょうか?それとも青年と一緒に幸せな姿を現すのでしょうか?これはみなさんへの問いかけにしたいと思います。問いかけをもう一つ。安房直子さんの作品は絵画的であると言われます。読んでいると自然と情景が浮かんできますね。私は日本を代表する、ある文学者を連想します。ノーベル文学賞を受賞された方ですが、みなさんはどのように思われるでしょうか。

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「鳥にさらわれた娘」 石川珠美

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このお話は、昔話によくある異類婚姻譚で、主人公は、シギに変身させられてしまいます。粗筋だけ拾うと、恐ろしい話ですが、この変身が私たち読者に引き起こす感情は、恐怖ではなく、むしろ異界にさそわれる甘美さのほうではないでしょうか?
この作品の中で「海」は、魔力のあるシギの棲家、一種のユートピアです。主人公がシギに変身してしまうのは「罰」ではなく、シギとのロマンスとして、辛い人間界を捨て、シギの住むユートピアへ解放されるという結末になります。
安房さんは多くの異界に誘われるお話を書いています。いずれも自ら進んで囚われ、異界の甘美さに身を浸す作品ばかりです。「海」が舞台の「火影の夢」「海の口笛」も、ともに帰ってこない結末を迎えます。「夢の果て」の少年と少女は紙人形のように海に落ちていきます。「海」は、「人を日常から引き離すもの」「得体のしれない吸引力を持つもの」なのです。

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「夢の果て」 仁藤眞理子

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美しい目をした13才の娘がドリーム化粧品の青いアイシャドウをつけて眠ると、青いアイリスの花畑をどこまでも走って行く夢を見る様になる。青い花の果てに自分の美しい目を見てくれるはずのすてきな人がいる様な気がして、誰かに出会う為に、毎晩アイシャドウをつけて眠る様になる。この部分が私はとても好きで、そんな娘時代の気持ちに懐かしさを感じる。物語はついに夢の中の背が高い若者に出会えるが、その後に起こることは、恐ろしい予知夢の様にも読める。が私は安房メルへンを現実の世界に置き換えてしまいがちで、娘が走り続けた青い花畑は子供時代の青い日々であり、若者の吹くトランペットは二人の出会いの祝祭の音色の様に聞こえる。そして手をとり合って人生の大海原に二人で飛び込んで行く若者達の将来を暗示している様。美しい瞳でにっこり笑っているだけで幸福が手に入ると思っていた高慢な娘の夢の様な時間は、もうすぐ果ててしまうことを、アイシャドウをつけて背のびしたことで、ひと足先に知ってしまったのではないでしょうか。

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安房直子作品との出会い(参加者)

この後、参加者の皆さまとスタッフが一緒になり、安房作品との出会いや、印象などをお話頂きました。その中から一部をご紹介します。

 

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出会いは小学生の時です。母のものだった『南の島の魔法の話』(講談社文庫)を読んで、一度で虜になりました。図書館で手にとれる物は全て読みました。それ以来、ずっと好きです。周りに安房さん好きはいませんでしたので、誰にもわかってもらえませんでした。キンモクセイの時期には「花のにおう町」、桜の散る頃には「緑のスキップ」の話をしてみたい。そう思っていました。この会に来られて、夢のようです。
安房さんの描く「海」は、憧れでもあり、恐怖の対象でもあります。「夢の果て」の少年少女は海に吸い込まれるように落ちていきますし、「さんしょっ子」は風にのって海へ向かいます。「海」は、得体の知れない生き物が住んでいる、底知れない場所です。「鳥」の魔女は、海のほとりに住んでおり、海の魔的な力を借りている怖い不気味な存在です。「鳥」の冒頭で、「どこから来たんだい?」と聞かれた少女は「海から。」とだけ答えます。それだけで潮風を感じさせ、少女がこちら側の者ではないことを予感させる、すばらしい導入部です。
大学時代の卒論は、安房直子論でした。「食べること」と「眠ること」をキーワードに書きました。異世界と交流することが多い安房作品、動物と人間が会食する物語がたくさんあります。ものを食べる事により、異世界に行ってしまう。「花びらづくし」等は眠りを我慢して我慢して、「こちら側」に戻ってきます。この二つのアクションが、重要なキーワードではないか?と考えたのです。(るいさん)

 

絵本の「雪窓」が安房作品との出会いです。子供に読み聞かせていたのですが、安房さんは心のきれいな人だと思いました。英訳された "The Fox's Window and Other Stories"を読み、寂しさとか喪失感の描き方が魅力的だと思いました(バラさん)

 

小学生の頃に、「きつねの窓」と、出会いました。その後、大学生の兄が、『南の島の魔法の話』(講談社文庫)を貸してくれたのを読み、一気に引き込まれて、それ以来、ずっと好きでいます。このような、安房作品の話をできるのが、嬉しいです。私は、外国語を勉強しています。フランス語です。いつか、安房さんの作品を、フランス語に翻訳する事が夢です。(朋子さん)


小学校3年生の頃、『天の鹿』が最初の安房作品です。安房さんの文章はアニメなどよりも絵画的で、情景描写が強く印象に残りますね、食べ物とか着物の柄とか。大人になってからも、ふと思い出します(めぐみさん)


安房さんとの出会いは最近で、四、五年前の事です。もともと絵本が好きで、図書館で「あ行」から探している中で、安房直子さんと出会ったのです。『きつねの窓 』 を手に取りました。それから「安房直子さん」をネットで検索し、安房さんの女学生の頃の写真を拝見し、この人には会った事がある、という思いを強くしました。昔、同僚だった人ではないか?と思えたのです。不思議なご縁を感じました。(まゆみさん)


「きつねの窓」が好きです。大人になってから、本屋で出会い、懐かしく思って手に取りました。教科書にしては「入り込める」お話であると、小学生の時に思ったのです。
安房さんの作品には、私達への「忠告」が書かれている事があります。良くない感情を持つと、「罰」があたる。読みながら、自分自身も考えさせられるのが、安房さんの魅力です。(みかさん)


今回の読書会の中では、「火影の夢」が好きです。海の近くに住んでいるので、とても惹かれるものを感じます。(まゆこさん)

 

「夢の果て」のドリーム化粧品を買いたいです。安房作品は大好きなので、人には教えたくないと思ってしまいます。(かおりさん)

 

「日暮れの海の物語」で安房直子さんを知りました。安房さんの作品、海とか空とか、青色が印象的ですね。(かずえさん)

 

生前、安房さんは絵のような文章を書きたいと仰っていました、安房さん自身が青色が好きでシャガールの絵が持つ語りを目指していると。(マグノリアさん)


出会いは、半世紀近く前、八歳の頃だと思います。母は読書家で、毎日のように本を買ってくれたのですが、その中で出会ったのが、『北風のわすれたハンカチ』でした。読んだ途端、八歳の子供の頭の中が、「物語」でいっぱいになりました。何度も何度も読み返し、まるで水が溢れるように「物語」が溢れてくるように感じ、いったいどうしたらいいのか。こんな素敵なおはなしがあるのだと。どうしたらよいのかわからないまま、鉛筆を持ち出して、感想文を書きました。それを夏休み明けに学校で提出しました。『北風のわすれたハンカチ』は、牧村慶子さんの挿絵で、本当に可愛らしく、食べ物は美味しそうで、母に、ここに出てくるホットケーキを焼いてくれ、と、頼み込みました。パンをこねている場面や、カップケーキを差し出す場面など、とにかく、「食べたい!」と。どんなに食べたいと思ったことか、半世紀近く経った今でも忘れません。
自分が八歳の時に出会っているので、子供たちにも読ませたいと思いました。どのような環境なら安房作品を子供達は読んでくれるのか。環境を整え、伝えていくのが、私たち周りの大人の使命であると思うのです。(安齋)

 

安房作品との出会いは、小学校低学年の時、『銀のくじゃく』です。『銀のくじゃく』と『白いおうむの森』の両方を読んで、このような幻想的な物語に出会ったのは初めてのことで、とにかく惹きつけられ、夢中になりました。『銀のくじゃく』と『白いおうむの森』の挿絵は、赤星亮衛さんです。赤星さんの挿絵は、子供じみていない、実に魔術的で不思議な魅力のある挿絵で、この挿絵にも強く惹かれました。お手元の『安房直子のお料理レシピ~秋冬』は、私が書きました。手にとっていただけて嬉しく思います。(石川)


生前、安房直子さんはダイニングキッチンのテーブルで原稿を書くことが多かったそうです。作品にお料理が登場するのもそのためかもしれませんね。

 

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◎秋の会 参加者アンケートまとめ

本日の催しについて

・満足度について
 とても有意義だった。知人にも紹介したい・・・7人
 有意義だった。また参加したい・・・6人
 期待していたものとは違っていた・・0人
 不満が残る・・・・・・・・・・・・0人

(コメント)
*これまで安房さんについて語りあえる場がなく、今日初めて皆さんの話を聞けて本当に嬉しく思いました。自分以外の人の口から「火影の夢」「さんしょっ子」という言葉が聞けるとは・・・! 料理本は、ずっとあればいいのにと思っていたものです。ぜひ春夏版も重版いただきたいです。また、海賊も,お手紙や直筆原稿も拝見できて感動しました。亡くなってこんなにたっているのに、まだ読んでいない作品があることが嬉しいです。
安房さんと親しかった方もいらっしゃって、おもいがけないお話しもお聞きできました。皆さんから作品の紹介をいただき、時間を作ってまた読みたいなと思えました。すばらしい会をありがとうございました。
*色々なもの(本)、お話しが聞けて面白かったです。スタッフさんのサポートがありがたかったです。レシピ本は夢のような企画でとてもうれしいです! 海がテーマだからか、スタッフさんの青っぽいお洋服ステキでした。
安房直子さんの作品についてこんなにお話しした事ははじめてでした。とてもしあわせな時間でした。
*読書会には初めて参加しました。安房作品がお好きな方が沢山いる空間、とても楽しかったです。
安房さんゆかりの場所でできるのはいいですね。
*今日参加できて本当に良かったです。安房さんゆかりの土地での読書会、楽しみにしていました。貴重な書物を手にとって見ることができて感激です。これからの活動(朗読)に生かしていきたいです。
*とても楽しい会でした♪ もっと長くてもいいかな、なんて思ってしまいました(笑)
*私の大好きな作品を読んでいた方がいて、そのお話ができて、とても楽しかったです。ぜひまたうかがわせて頂きたいです。

今後の催しについて

・期待すること
 安房直子さんについて知る機会が欲しい・・・・・・・・・8人
 朗読会など安房さん作品を鑑賞する機会が欲しい・・・・・7人
 安房さん作品についてお互い話ができる機会が欲しい・・10人
 日頃からSNSを通じて安房さんファンと交流したい・・・3人


(コメント)
*皆さんの好きな作品を聞けるだけでも幸せです。安房直子さんの文章の素晴らしさを世の中の方にもっと知っていただきたいと思います。皆さんの好きなフレーズなど話しあってみたいです。
*お料理会などもやっていただきたいです。
*今回も幸せな良いひとときを有難うございました。
*あまり大げさにせず半年に一度くらい参加したいなあと思います。安房さんのお人柄を私も大切にしたいと思います。
*若い方が増えて嬉しいです! これからも開拓を・・・。ツイッターの効果抜群ですね。よろしくお願いします。
*遠方のため、日曜日の開催でしたら参加できると思います。
*ここでの出会いを楽しみにしています。
安房直子さんの世界について生前のご本人のお話を伺ったり、解釈をしていただいたり、なかなかない機会を与えていただきありがとうございました。外国の方に安房文学が読まれていることにも大変嬉しい思いがいたしました。伝わるものなのですね。
*SNSの活用、とてもよいと思います!
*とりあえず田無の図書館へ行こうと思いました。
*子供にも安房さんの作品を知ってもらいたいですから、できれば絵本の朗読会をしてほしいです。

会計報告

多額のカンパを頂きました!参加者のみなさま、ありがとうございました。有効に役立たせていただきます。

収入
  参加費(13名×500円)     6,500円
  寄付(レシピ本著者石川さん) 5,000円
  カンパ(参加者の皆さん)   7,220円
  合計             18,720円

支出
  飲み物            1,687円
  クッキー           3,800円
  合計             5,487円

残金               13,233円

 *残金13,233円は、全体会計に繰り入れます。カンパのご協力をありがとうございました。

 *全体会計は、年度末(3月末〆)にご報告いたします。

 

次回、春の会は3月を予定しています。追ってお知らせします。