安房直子記念〜ライラック通りの会

安房直子さんの世界を語り継ぐ

安房さんの世界は、時代を越えて多くの人の心によりそい続けてくれます。
その豊かさをまだ知らない子供たちや、若者、大人たちに、
安房直子さんの作品が広く読み継がれていってほしいと、私たちは願っています。
そのためのいろいろな活動を、みなさんと一緒にやっていきたいと、この会を立ち上げました。


スタッフ 安齋明子 窪龍子 佐伯好江 永島志津夫 永田陽二 蓮見けい
イラスト 仁藤眞理子   

安房直子記念~ライラック通りの会事務局
awanaoko.lilac@gmail.com

安房直子作品によるビブリオバトル Vol.2 ご報告

ライラック通りの会では、昨年より「秋の会」としてビブリオバトルを開催、

今秋2回目を迎えることができました。

「必要なものはたった1冊の本だけ!」

それなのに、ビブリオバトルの効果は、こんなにも

限りなく広く、果てしなく深いのだ、ということを早くも2回目の開催にて

実感する大成功の「秋の会」だったと思います。

まさにビブリオバトルの神髄である

「人を通して本を知る、本を通して人を知る。」

キャッチフレーズ通り、思いがけない作品に出合うことができただけでなく、

バトラーはもとより、参加者全員の、人となり、はたまた秘めたる才能の発見、

と人生を変える「出会い」があったこともお伝えしたいと思います。

 

  5人のバトラーの発表(本人による要約)

 

1.「秋の風鈴」   仁藤眞理子 

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 この物語は、ひとり暮らしの貧乏な絵描きのもとに、苦情のハガキが届くところから始まります。秋になっても、しまわずにいたお気に入りの風鈴の音がうるさいので、みんなが寝不足になっているというのです。

 いったい、どんな人達が不満を持っているのか、思い悩むうち、意地になってそのままにしていました。すると、十日ほどたって、きもがつぶれる様な出来事が起きて、ついには、風鈴をしまうことにしました。

 いったい何が起こったのか? そのあと、水の底にでも沈んだような日々を送っていた主人公ですが、ある朝何もかもすっかりなっとくして、心が晴れることなるのです。そこから安房メルヘンの謎解きが始まります。

 そして最後には、主人公と共に、私達をとりまく身近な自然を愛おしく思うのです。

 私は、この作品を1974年12月号の「詩とメルヘン」で初めて読みました。それは味戸ケイコさんの挿絵で、すきとおる様な美しい秋の風景が描かれていて、安房さんの作品をいっそう引き立てて、今も心の中に焼きついています。

 

2.「ふしぎな文房具屋」 尾上エミ子

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 ある町に、おじいさんが店番をしている小さな文房具屋がありました。ここでは、何でも消える消しゴム、何でも吸い取ってくれる吸いとり紙や虹から色をもらった絵の具など変わった文房具を売っていました。

 ある冬の日暮れどき、大事にしていた猫が死んでしまったという大きな悲しみを抱えた女の子が、悲しみを消す消しゴムを買いに来ました。

 おじいさんが描いた水仙の絵の中に、死んだはずの猫を見つけた女の子は、おじいさんに猫に会わせてほしいと頼みました。そして、おじいさんが作ったふしぎな眼鏡であの猫に会うことができました。

 猫と遊んでいるうちに女の子の心は喜びでいっぱいになり、楽しくて、いつのまにか悲しみを忘れていました。けれど、なぜか猫は空に昇って行ってしまいました。

 女の子は、思わず出て来た涙を拭くために眼鏡をはずしました。

 気がつくと、そこはお店の中でした。

 おじいさんは「帰ってきましたね。猫におわかれをしてきましたか」と聞きました。

 女の子は、にっこり笑って消しゴムと吸いとり紙をもらって帰りました。

 

3.「空色のゆりいす」 岡野尚子

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  空色のゆりいすは安房さんが二十歳のとき書いた処女作に近い作品です。
若いいすつくりの夫婦に生まれた目の見えない女の赤ちゃんが空色のゆりいすに座って心の目で空の色を覚えるというお話です。安房さんは色というものを言葉の力だけでありありと伝えてみたいと思っていたそうです。
 いすつくりは、ある日こくりと青い空を見て生まれつき目の見えない自分の子にたった一つの色を教えられるのなら空の色を教えたいと思いました。枯草の中にちょこんと座って空の絵をかいていた小さい男の子、実は風の子は、本当の空色は空からもらうんだよと言って、空から空色をもらう方法を教えてくれます。この場面のいすつくりと男の子のやりとりがとても可愛らしく、不思議で、この辺から幻想の世界へ引き込まれてしまいます。女の子は空からもらった空色をぬったゆりいすに座って空をおぼえます。ゆりいすというひびきもかたちもお話の世界へ誘うようです。こうして女の子は紅バラの色も海もおぼえます。何年もたち、風者の子は若となっていすつくりの弟子にしてほしいといってあらわれます。女の子にはその若者が空色をくれた人だとすぐに分かり、幸せなお嫁さんになります。
 いすつくり夫婦と女の子は生まれつき目が見えないという深い悲しみを静かに受け止めて、毎日の何でもない生活と自然の中で幸せになっていくのです。悲しみを底に秘めたやさしさが心に残ります。

 

4.「ねずみの福引き」 山崎よし子

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 すすきの原っぱやひと気のない林の小道、そんなところにその世界はきっとある…と思わせてくれたのが「ねずみの福引」のお話です。

ある時とうふやさんは、「とうふ1丁」を持参するという条件つきで、「ねずみの福引」に誘われます。辿り着いたねずみの町はお祭りの真最中で、

人間界と少しも変わらず、なんと酔っ払いまでいます。

 さて目的の福引は、というと賞品はなかなかで、1等は「たんすひとさお」から始まって、5等の残念賞は「花火1本」まで。

花火を引き当てて少しがっかりしたとうふやさんに、ねずみはささやきます。「いい花火ですよ、みんなが欲しがります」。

 とうふ1丁は寄せ鍋に姿を変え、パーティを盛り上げました。そして華やかなフィナーレに、線香花火がみごとな打ち上げ花火となって花ひらいたのです。

とうふやさんはその光景に目が潤みます。1本の線香花火がくれた感動を思いながら、夜道を急いだのでした。

心を揺さぶられる感動というのは地球の片隅に住むねずみからさえももらうことができるーこのお話はそれがテーマなのでしょうか。

私は、ちいさな感動のつみかさねで、私たちは心優しくなれるのかもしれないという、安房さんのメッセージを思うのです。

 

5.「雪窓」 永田陽二

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この作品には安房ワールドを構成する魅力的な要素が5つ入っています。

1「お店屋さん」本作では屋台のおでん屋さん。

 スピルバーグ映画の如く屋台が坂道を暴走する場面にドキドキワクワクです。

2「孤独な主人公」妻子を亡くした「ひとりぽっち」のオジサンが主人公。

 病気の6歳の娘を背負って雪の峠を越える回想場面に思わず泣きそうになり

 ました。

3「人語を喋る動物」タヌキが脇役として登場。

 オジサンを健気に支える彼にはぜひ助演男優賞を贈りたい。

4「失った人との再会」亡くなった娘が16歳に成長した姿でオジサンの前に現

 れます。

 哀しい出会いがたまらなく美しい。

5「死の世界への恐怖」森の中で襲いかかるモノノケ達。

 苦難を越えて隣りの村を目指すオジサンとタヌキの冒険を盛上げます。

起承転結の構成が絶妙な快作。新版の絵本を特にオススメします。

 

               🌷  🌷 

    参加者によるディスカッション

秋の風鈴  

尾上 :今の季節にぴったりのお話!

    仁藤さんはよく、この作品を選ばれたと思いました。

生沢 :今の時代にもありそうなお話。それを安房さんは20年も前に書かれた。

みんな:ほんとに。冬でも風鈴を吊るしたままの人もいる。

参加者:そんなよくある情景を、よくこのようなファンタジーに仕立てた。

    素晴らしい。

仁藤 :最初「詩とメルヘン」で読んだが、味戸さんの絵も、マッチしていて印象深かった。

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ふしぎな文房具屋  

尾上 :私の場合はワンちゃんだったが、高齢で死んだ時の悲しさやうつろな気持ちが、この作品の少女に投影されて、深い癒しを感じさせてくれたので、バトラーとして取りあげた。

岡野 :死ぬときは人も動物も力が弱り汚くなる。けれどこのお話では、スイセンのすてきなところを見られて、きれいなネコになっていった。

参加者:この作品の深いテーマを、教えて頂きました。

    今まで、読み過ごしていた作品です。

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空色のゆりいす  

岡野 :安房さんは20台で、大学のレポート代りに書いた作品だという。安房作品にはよく死の影暗い影が見えるが、この作品では影が、こっくりとした空の色とか、紅バラ色のとろりとした絵具とか、美しい色にとって代わられている。

山崎 :あたたかい厚いひざかけのような色、シレソの和音のような色、とか。私には孫が3人いますが、青、という名前の子もいます。

   (…ワア、とみんな。)

参加者:うちには空(そら)という名前の子がいます。

   (…ワアア、とみんな。)

 

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ねずみの福引き  

山崎 :安房さんのちいさいひとへのお話を取り上げました。ねこじゃらしの原っぱには、ことりやねずみまで来るんですよね、そんな世界のお話です。

尾上 :安房さんのお話って、よくおとうふ屋さんがでてきますね。

南  :おとうふという食べ物については、特に「すごく好き」とは聞いていませんでしたけど。

生沢 :安房さんとは、仲間と鶯谷の「笹の雪」という豆腐料理の店に行ったことがありますけど、そのあと「おとうふ屋さんのお話、書きたい」と言われていたそうです。

蓮見 :あのー、南さん、生沢さん…お二人は「花豆の会」時代の世話人で、現スタッフの窪さんと蓮見も共に、安房さんが日本女子大山室静先生の児童文学特論というゼミの聴講生だった時に、有志で同人雑誌「海賊」を始めたのが、友人になったきっかけです。

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雪窓  

永田 :私は、やはりこの作品がいちばんだな、という気持ちがありました。

    ①お店というなじみの設定、②主人公が独りぼっちということ、③モノ言う動物がいる…この作品のたぬきは、さしづめ助演男優賞といった活躍ぶり(みんな、爆笑)、④失った大切な人と再会するというテーマがあること、⑤死へと向かう恐怖に引きずり込まれそうになる、ユーモアを越えた世界に泣きそうになる…など、安房ワールド集大成の作品だと思ったんです。

拝野 :「雪窓」の、どのシーンが永田さんは一番好きでしたか?

永田 :うーん、…手袋をわすれた娘の後を追いかけていくところ。あのくだりはたまらなかったなあ。

拝野 :私が一番印象に残っているのは、冬の月夜、熱を出した娘をせおって森や峠を駆け抜けて医者へ連れていったら、美代は冷たくなっていて。…

    それで、おやじさんは、今通ってきた道のいったいどこで、美代のたましいは飛んで行ってしまったのだろう、って思うのですよね。あそこ、すごく胸を打たれました!

蓮見 :私は、雪窓、おでんの屋台が、坂道をゴロゴロ転げ落ちていくというシーンが印象深かったです。誰の映画でしたっけ、階段を赤ちゃんの乗った乳母車が転げ落ちていくという場面があったけれど、あの映画とは違った、雪窓がゴロゴロ坂を下っていって、思い切った場面が転換する効果的な物語になっていて、素晴らしいと思いました。

石川 :乳母車が階段を落ちていくというのは、エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」という映画です。

石川 :あのー、おでん屋さんの話もそうですけど、私は安房作品には、魅力的な食べ物のお話がすごくたくさんあるので、ぜひどなたか、料理のレシピ本を書いて頂きたいです。

窪  :それはぜひ、石川さんご自身がなさってください、応援します。(笑)

永島 :小学校時代に、教科書で「きつねの窓」を読んだのが、はじめての安房作品との出会いです。僕は理系出身ですが、とりつかれて以来40余年、読み続けてきました。今日はとても充実した会に参加できてよかった!

浅沼 :ライラック通りのブログを読んで、初めて参加して、よかったです。

   (…ワア、とみんな。)

秋葉 :私もホームページを見て参加した。私は朗読のサークルに参加している。発表会では安房さんの「日暮れの海の物語」を読みます。

   (…ガンバッテ、とみんな。) 

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                🌷  🌷

 ディスカッションが終わって、皆それぞれで悩みながら、どの作品を読んでみたいか、それぞれが一票を投じた結果、今回のビブリオバトルのチャンプ本は、「雪窓」に決まりました。

 今後の「ライラック通りの会」のビブリオバトルの展開がますます面白くなってきました。

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 最後にビブリオバトルの公式ルールをおさらいしておきましょう。

 

   ビブリオバトル公式ルール
  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本をもって集まる。
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを
    2~3分行う。
  4. すべての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を

    基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めものを

    「チャンプ本」とする。

  しつこいようですが、チャンプ本は「どの本が一番読みたくなったか?」が投票基準であり、あくまでも発表の良し悪しを競うものではありません。

 

 次回は2019年、秋に開催の予定です。
 このブログをご覧の方々も、われこそは!と思われる方、ふるってご参加ください。

   

         お知らせ

 この会のあと、石川さんからご自身でまとめられた安房作品に出てくるレシピ本の魅力的な表紙とともに原稿が送られてきました。冊子にまとめたものを実費で分けてくださるそうです。入手なさりたい方は、石川さんに直接お問い合わせください。

メルアド:wildthingsgarden117@gmail.com です。 

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 次回のライラック通りの会は、2019年に春に開催予定です。お楽しみに。